陸防移動指揮車車上
「大佐、まもなくゴジラとディオガルスは名神高速道、京都南インターチェンジ付近で遭遇する見込みです。」
「うむ、そこと御所を結ぶラインの住民の避難状況を再度警察と消防に急ぎ確認させろ。
 二匹の戦いはおそらくその線上で行われるはずだ。
 しかし・・・どこかに京都市外を一望できる場所はないか?」
菖蒲が手を挙げる。
「それだったら将軍塚がもってこいだわ。
左手に京都駅を、右手に御所を見おろせるから怪獣の侵攻を見守るには絶好のポイントだと思うの。」
「大佐、宝ガ池に駐屯中の第56普通科連隊もそちらに移動させますか?」
「うむ。速やかに移動させて移動指揮所を設営させろ!」
「今なら京都市内を突っ切って東山ドライブウェイへ!」
阿須美は思わず手を合わせ目を閉じる。
「龍よ、守って。おじいさまがこよなく愛された都を!!」

京都南インターチェンジ付近
ゴジラは行く手をさえぎる闇夜に青白くその身を浮き上がらせる敵を見た。
ギャァァァーーーーン!!
敵を威嚇するひときわ甲高い咆吼!
一方のディオガルスはその身を低くかがめ現れた龍との間合いを計りながら同じく威嚇のうなり声をあげ、ゆっくりとその周りを回り始める。
グゥォォォォォォ・・・・・・・
その咆吼が止んだ次の一瞬、ゴジラの背鰭が激しく発光する。
ゴォォォォォォーーーーーーッ!!!
必殺の放射熱線が放たれた瞬間にディオガルスは宙を舞う。
放射熱線で粉々になった辺りの民家の残骸がまだ舞い降りもしないうちに、飛び退いたディオガルスは甲高い咆吼と共に再び宙を舞ってゴジラに飛びかかる。
ギュワォォォォーーーー!
それはゴジラの頭上を飛び越しながらその逞しい後ろ足でゴジラの背を蹴りつけた。
バランスを失ったゴジラは辺りの建造物をなぎ倒しながら前のめりに吹っ飛ぶ。
頭を振って起きあがろうとしたその瞬間、再び獣王はまるで重力を無視したかのように宙を舞い、ゴジラの横に着地する。
そのまま前足でゴジラの頭を力任せに踏みつけると、その長大な牙をゴジラの後頚部にくい込ませた!
たまらず起きあがったゴジラは激しく身をよじってディオガルスを振り解く。
横倒れに吹っ飛ぶディオガルス。
追撃の放射熱線!!
が再びディオガルスはその巨体をウソのように翻して飛び退く。
側にあったガソリンスタンドが激しい火柱と共に爆発する。
それらが舞い降りた瞬間あたりは猛火に包まれていた。
ギャァァァァァァァァーーーーン!
グワォォォォォォゥ!
身を低くかがめたディオガルスの前足の爪がまるで猫類のごとく伸び、そのままジャンプ!
が、すばやく身を翻したゴジラの尻尾がディオガルスの体を横殴りに払う。
もんどりうって転がるディオガルス。
闇夜を照らす猛火の中にそのシルエットを浮かび上がらせた二匹は絡み合い転げ回りながら徐々に京都の中心部に向かっていた。

将軍塚最前線基地
「どうなっている、状況は?!」
「京都南インターチェンジ付近で遭遇した二匹はそのまま交戦状態に入りながら市街中心部に向かって移動中!
ゴジラの放射熱線でガソリンスタンドが爆発炎上して大規模な火災が発生しています。
付近の建物の損壊が激しく道路が寸断され消防は近づくことすらできないありさまで・・・。」
菖蒲は猛然と火の手を上げる京都市街を呆然と見つめながら独り言のようにつぶやいた。
「将軍塚というのは、桓武天皇が都を長岡から京都に遷都した際、長くこの都を守るようにとの祈りを込めて、武将像を土で作り、これに鎧甲着せ、鉄の弓矢を持たせ、京都市街を向かせて埋めたことから名付けられたと伝えられているの。
武将像は今どんな気持ちでこの燃える都を見ているのかしら。」
「あの老人が命を投げ出してまで守ろうとした京都の町が、自ら龍返しの術で呼び寄せたゴジラとの戦いで燃えているなんて何て皮肉な・・・。」
「それは違いますわ、真田さん。
 確かにおじいさまは京都を愛してらっしゃった。
 でも光明が守っていたのは時の朝廷であって、この『くに』でした。
 平安の世ではこの都がすなわち『くに』であっただけのことです。
 ディオガルスをこのままにしておけばやがてこの『くに』は滅ぶでしょう。
 おじいさまは都を身代わりにしても『くに』を守る道を選ばれたのです。」
 天を焦がす京都の火をじっと見つめる阿須美の目には大粒の涙が浮かんでいた。


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