海上防衛隊旗艦「あけぼの」艦橋

艦長館川少将は口を真一文字に結んで夜のとばりがおり始めた海を見つめている。
「艦長、全艦出撃準備完了いたしました!」
「うむ、ディオガルスは?」
「石廊崎の沖合い5kmを40ノットのスピードで浦賀水道に向かって侵攻中です。」
「やはり来るのか、東京に。」
「P3Cと潜水艦『あさひ』と『ちぐさ』が追尾中ですが、ディオガルスはまっすぐこちらに向かってきています。」
「・・・・よし。」
館川少将はうなずき、マイクを手に取った。
「諸君、わが第一艦隊はこれよりディオガルス迎撃のために出撃するっ!
 海防にとっては初めての怪獣との夜戦だ。
 かつまたこれは伊勢湾でやつに撃沈された4隻の駆逐艦の弔い合戦でもある。
 各員にあってはいっそう気持ちを引き締めて任務を全うするように!!」
横須賀港に集結した第一艦隊の軍艦の汽笛が次々と鳴り響く。
そしていずこからともなく万歳の歓声と海防の歌がまきおこった。
♪海の守りは我らがつとめ
 防人とならむ若人の 熱き血潮が碧にはえ・・・・

かの太平洋戦争末期にわが国の最後の守りとして建造され、それが一度も火を噴くことがなかった計9門の48センチ砲を鈍く光らせながらその巨艦はゆっくりと岸壁を離れていった。
そして大小の艦船が次々とそれに続く。

石廊崎の沖合い、対戦車ヘリ機内

中島少佐が乗るそのへりは海防からの無線を頼りに浦賀水道に向けて飛行を続けていた。
「少佐、海防横須賀基地より入電。
 旗艦『あけぼの』以下第一艦隊がただいま出航したとのことです。」
「最後の望みの綱は『あけぼの』だな。」
同乗していた隊員達が「えっ?」という表情で少佐の顔をのぞき込む。
「考えてもみろ。
 あらゆる近代兵器を無力化するあの電磁のバケモノに有効な兵器なんてあるものか!
 何でもかんでもコンピューター制御になってる兵器をいくつ並べてみてもかなう相手じゃない。
 むしろ太古の恐竜の生き残りのような『あけぼの』の48センチ砲以外にやつを貫けるものは無いさ。」
「少佐、浦賀水道の最終防衛ラインを突破されたら後が。」
「そうだ。水際作戦をやろうにも我々陸防の兵器じゃ歯が立たない。
 陸にあげて特甲弾を敷設し直して吹っ飛ばすしかあるまい。」
「都内で特甲弾を?!大佐が許可なさるでしょうか?」
「じゃあどうしろって言うんだ?!
 怪獣に帝都を蹂躙されるのを黙って見てろとでもいうのか!!」
そう言って彼はぎりぎりと音がしそうなくらい拳を握りしめた。

太平洋上「ゴジラ誘導作戦」ヘリ機内

「海防の第一艦隊が横須賀を出航したそうです。」
「今の防衛隊にディオガルスが防げるものか!
 あの電磁の魔獣の恐ろしさがまだ分からないのか!
 きっとあの老人がゴジラを『式』に選んだ理由がきっとあるはずなんだ。
 ディオガルスを倒せるのはゴジラしかいない!!」
頭を抱え込んだ真田にパイロットが告げる。
「真田さん、予定のポイントです。どうしますか?」
「真田、海溝にゴジラを放つぞ、いいのか?」
「おれに聞かないでくれ!」
阿須美は頭を抱え込んだままの真田の肩に優しく手を添えしっかりとした口調で言った。
「金城さん、龍を解き放ってやって下さい。
 あるいは龍自身が自らのつとめを知っているのかも知れません。」
真田が「えっ」という表情で顔を上げた。
阿須美は頭を振りながらこう答えた。
「所詮『影』の私には龍の気持ちは読めません。
 でも傷ついた龍には休息が必要なはずです。その傷が癒えた時あるいは・・・・」
「龍は・・・ゴジラが戻ってくると言うのか?!」
「『龍返し』の術は物の怪をおさめた後、再び龍を封印する術があるはずなのです。
 でもそれはいまだに見えない。」
「まだ『龍返し』の術は効いているっていうのか、阿須美さん?!」
「いいえ、金城さん。
 でも『龍』という『魔』を操って物の怪を払う『龍返し』の術は光明の最高の秘術なのです。
 真田さんがおっしゃるようにおじいさまが『龍』としてゴジラを選ばれたのことには理由があるのかも知れません。」
「わかった。強化コントロールを解除するぞ!」
真田は黙ってうなずいた。
「ゴジラ、海溝に潜っていきます。信号、ロスト!」
「おれは待ってるぞ、ゴジラ!」
そう言いながら既に消えたゴジラのレーダー信号を真田はじっと見つめていた。


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