浦賀水道(観音崎〜富津岬最終防衛ライン)
旗艦「あけぼの」艦橋。

浦賀水道は最深部では500m以上にも達する。
しかしこの観音崎〜富津岬ライン上では最深部でも60mに過ぎない。
潜水して艦隊の下をすり抜けられないように、彼らがここを最終防衛ラインに選んだのは至極当然であった。

「駿河湾への駆逐艦『あさかぜ』『ゆうばり』『つるが』『しおみ』、潜水艦『おうか』『きくすい』の配備完了。」
「艦長、P3Cから入電。
 ディオガルスは城ケ島の南西15kmの地点を北東に向かって進行中。
 多量の電磁波を発しており、あるいは索敵目的のものかと。」

「うむ。作戦を確認する。
 伊勢湾戦及び陸防の関ヶ原戦からのデーターからすると、おそらくディオガルスの電磁界の範囲は周囲5km、静電砲の射程距離は長く見積もっても1kmだろう。
 これ以内の懐にヤツを潜り込ませると戦いは苦しくなる。
 従ってディオガルスが最終防衛ラインの手前20kmの地点にさしかかった地点を攻撃開始ポイントとする。
 まずは百里基地からの空防の爆撃機からの機雷投下によりディオガルスを浮上させ、「あけぼの」及び駆逐艦からの一斉砲撃、及びハープーン対艦ミサイルにより撃滅する。
 万が一ディオガルスが駿河湾方向に進路を変えた場合は別部隊により迎撃。
 10kmにまで接近したらアスロック対潜ロケットも併用して海中と海上からの挟み撃ちだ。
 ディオガルスのソナー・データのセットは完全だろうな?」
「あの怪獣は水中においては『泳ぐ』というよりは電気による水の分解・再合成によって推力を得ているらしく、船舶とは明らかに異なるキャビテーションを発します。
 この貴重なデータも伊勢湾で犠牲になった仲間達が・・・。」
戦闘参謀はそこまで言って言葉を詰まらせた。
「息子さんが確か『こんごう』に乗っていたのだったな。」
「申し訳ありません艦長、こんな時に。」
「百里のBから入電、まもなくポイント上空とのことです!」
「全艦取り舵いっぱい!各艦標準スタンバイ!ハープーンの安全装置全解除!
 主砲、副砲回せっ!甲板の乗組員は艦内へ!」
「あけぼの」の主砲発射の際には甲板に猛烈な爆風が吹く。
副艦長が緊張した面もちで警報ブザーのスイッチを押す。
ビーッ、ビーッ、ビーッ・・・・
警報音が甲板に響きわたり、その巨艦はゆっくりと転蛇しながらその世界最大最強の主砲を回転させる。
整然と並んだ数十隻の艦艇はゆっくりとそれにならいその砲門をまだ見えぬ敵に向けた。


その3機の中距離爆撃機は4機のFに守られながら城ケ島の南西12km地点上空にあった。
B1型は四方を海で囲まれたわが国において戦後防衛目的のために作られた国産初めての爆雷投下専用爆撃機である。
「機長、P3Cからディオガルスのデータ入電。
 前方500m、深度200、北東に向かって40ノットの速度で侵攻中。」
「よし、投下装置とデータをシンクロさせろ。投下ハッチ開け!」

「Bから入電!ポイントです!」
「追尾中の潜水艦『あさひ』と『ちぐさ』を離させろ!!」
獣王の帝都侵攻を阻む戦いが今まさに始まろうとしていた。

3機のB1型爆撃機から十数発の爆雷が暗闇の海に向かって投下された。
それが水しぶきと共に海中に消え、しばしの静寂。
ズドォォォォォォーーーーーーン!
巨大な水柱の中にあの獣王が姿を現した。
グォォォォォーーーーッ!!

「ディオガルス浮上!」
「撃てっ!!」
ズゴゴゴゴゴォォォォォォォーーーーーーン!!!
夜の闇をこうこうと照らす閃光と天地を揺るがす轟音と共にその巨艦の主砲が火を噴く。
ほぼ同時にハープーンの鈍い発射音。
発射されたミサイルはブースターを切り放し海面すれすれを飛びながら獲物を狙う。
命中!!
それに少し遅れて訓練された砲手達が放った弾丸は正確無比にディオガルスを捉えていた。
ズバババババーーーーン!!
特に「あけぼの」の放った48cmの巨大な砲弾は容赦なく獣王の体にめり込んで炸裂する。
ギュワァァァァァァア!!!
ディオガルスは血反吐を吐きながらもんどりうって海中に没した。

「命中!ディオガルス、海中に逃れます!」
「Bに再度爆雷投下を!」

ズドォォォォォォーーーーーーン!
水柱の中に血塗れの獣王がたまらず姿を現した。
そして一斉砲撃!
そのうちの一発はそディオガルスの背鰭を引き裂く。
グゥォォォォォーーーーーー!!
悲鳴の様な咆哮をまだ見えぬ敵に発しながら獣王は再び海中に没した。

「艦長、効果は絶大のようですが、ディオガルスの侵攻は止まりません。まもなく距離10000!」
「アスロックも直ちに発射!!」
8連装のランチャーから発射された対潜ロケットは海中に逃れたディオガルスを容赦なく海上に押し上げる。
そしてそこに待ちかまえる一斉攻撃。
自らの射程に敵を見いだすことができないディオガルスに海防隊員達は自らの勝利を確信した。

横須賀海防中央作戦司令室
「やった!」「いけるぞ!」「もう少しだ、そこだ!!」
中央の巨大液晶モニターに映し出された「あけぼの」から送られる画像に歓声を上げる海防隊員達のなかで、中島少佐は少なくとも手放しでは喜んでいない自分を感じていた。
「できることならおれがこの手で・・・・。
 しかしディオガルス、お前は本当にこのままやられてしまう相手だったのか?!」

が、もちろん戦いはこれで終わりではなかった。


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