あけぼのの消滅を目撃した人々はモニターに写るディオガルスの姿が次第に遠ざかり消え去るのをぼんやりと眺めていた。
その中で真っ先に口を開いたのは大田原大佐だった。 「中島少佐、まだ無線が使用可能なうちに関東の全軍を小隊に分け、都内の主要幹線道路、人口密集地に配備せよ。 警察、消防との協力の上、避難する住民の誘導・監視にあたらせろ。 民放が望遠で今の戦いを中継していたはずだ。間もなく陸路は完全に使用不能になるだろう。 やつが帝都に上がってくるならば、そうだな・・・立川市の駐屯地に集められるだけのヘリを集めるんだ! 羽田空港は直ちに離発着を停止!!」 「大佐、このままディオガルスを東京に無血上陸させるおつもりですか? せめて空防に空からの攻撃を要請してください。」 太田原大佐は黙って首を横に振った。 「どうやって攻撃させる?対潜ミサイルは使えないんだぞ。 迷走させられて停泊中のタンカーにでもぶつけられたらただでは済まないだろう。 あるいは接近して機銃でも撃たせるのか?ディオガルスが静電砲を一発撃てばそれで終わりだ。」 「しかし、王手をかけられてるんですよ、我々は!」 「これは将棋ではない。たとえ王将を取られてもそれで終わりではないのだ。 少佐、防衛隊法83条を言ってみろ。」 「83条?『防衛隊の任務は天変地異その他の災害に際して人命または財産の保護のためにやむを得ないと認める場合に・・・』」 「そうだ。 どこにも『怪獣と戦え』などとは書いてない。 今我々防衛隊がなすべきことは戦うことではない。あくまで『人命と財産の保護』が最優先だ。 避難する人々の誘導、混乱の鎮圧、略奪行為の監視・・・すべきことは山のようにある。 それに・・・」 「それに?」 「再びディオガルスが東京に巣をはって、あの巫女さんが言うとおりに全国の『魔』を呼び寄せ始めたら我々はそれと戦わなければならない。 今はその時のために勝ち目の無い戦いでの武器や人員の無駄遣いは慎むのが当然だ!」 動きがあわただしくなった司令室の中で真田たちはぽつんと取り残されたようになっていた。 「真田、おれたちもうお払い箱かなあ?」 「いや、強化コントロール装置がおれ達の手の中にあるうちはお払い箱にはさせないさ!」 「強化コントロール装置って、お前まだ・・・」 「ディオガルスを倒せるのはゴジラしかいないはずなんだ。」 「やれやれ困ったヤツだ。阿須美さんはどうするんだい?」 「ディオガルスが再び巣をはり魔を呼び寄せるなら、私にもまだお役にたてることがあるかも知れません。」 「私は何の役にも立たないけど、ここまで来たら乗りかかった船。置いてけぼりはイヤよ。」 真田は3人の顔を見渡した。 「わかった。大佐に同行を頼み込んでみよう。」 しかしそうしている間にもディオガルスの位置を示す赤い点滅は地図上でどんどん帝都の喉元へ向かって侵攻していく。 「本牧船舶通航信号所から入電!ディオガルス、横浜市の沖合いを海面に浮上したまま北上しています。 陸地に接近する模様はありません!」 「やはり来るのか、まっすぐに東京へ?!! しかし『東京』と言っても広いぞ。一体どこに上がってくるつもりだ?!」 混乱は始まっていた。 またたくまに主要幹線道路は巨大な駐車場と化した。 公共交通機関は避難する人の群でごった返していた。 加えてディオガルスの接近による電波障害による情報の錯綜・・・ 人々は逃げる方向すらもわからずただただ慌てふためき、わめき合い、泣き叫ぶしかなかった。 首都圏はかってないほどのパニック状態となっていた。
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