首都高速湾岸線西行き
「ねえタカシとうとう止まっちゃったよ。いったいいつになったら横浜に着くのぉ?!」 約1時間前からの渋滞で今やぴくりとも動かなくなった車の助手席で須藤明美は頬を膨らませて、運転席の小林孝を睨んだ。 「そんなことおれに聞かれても。今日横浜でイベントでもあったっけ?」 「交通情報聞けばいいじゃん!チューナーぐらい付いてるんでしょ?」 「あ、そっか。」 孝は慌ててMDを止めチューナーのスイッチを捻る。 「あれ?・・・・交通情報って1620KHZだったよな。」 「知らないわよ、そんなこと。」 明美の顔がいっそう不機嫌になった。 「おかしいな・・・他のラジオ局も雑音ばっかりで・・・」 「そうだ!ケータイでも交通情報ぐらいなら・・・」 「冴えてるじゃん、明美。」 「あれ?・・・・どうしたんだろ。iモード・センターに繋がらないよ。 タカシのケータイでもやってみて。おっかしいなあ。」 ふと視線をケータイから窓の外に移した明美がまずそれに気づいた。 ケータイと格闘中のカレシを肘でこづく。 「タカシ、何だろ、あれ?!」 「えっ、どこどこ?」 「ホラ、あの海の上、青く光ってるの。」 「・・・ホントだ。・・・近づいてるのか、もしかして?!!」 防衛隊立川基地 「大佐、羽田空港の管制塔から有線で入電。 雑音がひどくはっきりは聞き取れませんがディオガルスが進路を急に変え隅田川河口方向に!!」 「隅田川沿いの上陸コースか。すると目標は・・・東京タワーか?」 「『東京』全体が発している電波に比べたらタワーの電波なんてたかが知れてます。 ・・・・まずいっ!!湾岸線が危ない!!」 いきなり大声を上げた金城をみんなが振り返った。 「わかりませんか!ここで渋滞してる車に乗ってる人たちは一様にケータイで連絡をとろうとしてるはずですよ! ディオガルスに取ってみれば目の前に横たわる巨大なアンテナも同じです!!」 全員がその言葉にはっとし、モニターに写る東京都の地図のその部分を見つめた。 同時刻、大井埠頭付近 ディオガルスは目の前に伸びる「光の帯」を小うるさそうに眺めた。 その湾岸線の路上は車を放置して逃げまどう人々でごった返し、パニックになっていた。 しかし獣王を不機嫌にさせたのは金城の予言通りその人々の「悲鳴」ではなく、乱れ飛ぶケータイの電波であった。 ゆっくりと鶏冠を広げるディオガルス。そして横なぎに静電砲の一閃!! 直撃を受けた人々は悲鳴を上げる間もなく、車や道路ごと消滅した。 そしてその直撃を免れた道路の両端から一気に火の手が上がる。 その火の手は路上にぎっしりと並んだ「ガソリンタンク」を次々と爆発させ、黒煙と共に瞬く間に燃え広がっていく。 その火の手の一方が東京湾トンネルの中に消えて十数秒後、 ズゴゴゴォォォォーーーーーン!!!! すさまじい爆音と共に真っ赤な火柱と黒煙がトンネルのもう一方の口から噴き上がった まるでそれはディオガルスによる首都蹂躙劇の始まりを告げる「祝砲」にすら思えた。
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