「状況はどうなっている?!」
「現場付近は・・・に電波状況が・・・火災が・・・・・車に・・・引火・・・。」
「ちぃっ!京都の時と同じだ!」
中島少佐が唇を噛みしめる。
「別のヘリから入電!ディオガルスの静電砲で首都高湾岸線に火災が発生し、渋滞中の車に次々と延焼中!
 画像届きます!!」
立川基地の司令部に居合わせた人々の声から悲痛な溜息が漏れる。
まるで東京湾を縁取るかのように首都高速が火の手を上げていた。
そこから噴き上がる黒煙が帝都の夜の明かりを霞ませるほどに・・・・。
「そのうちあの明かりが全部消えて真っ暗闇がやって来るぞ!消防は何をやっている?!」
「船舶火災用のヘリが出動していますが・・・」
「ディオガルス、レインボー・ブリッジにさしかかります!!」
ヘリからの画像がズームアップし、黒煙の間にまばゆくライトアップされた橋を背景に黒い巨大なシルエットが浮かび上がる。
そのシルエットはゆっくりと12枚の鶏冠を広げ始める。
闇の中にはえる無数の電撃!!
その悪魔の閃光は的確に芝浦埠頭側の高さ120mの主塔を破壊する。
支えを失った橋桁はその上に並ぶ車と、逃げ遅れた犠牲者ごと50m下の海中に没していく。
モニターを見ていた阿須美は両手で顔を覆い、真田の胸に顔を埋めた。
真田はその華奢な肩を躊躇いがちに抱きながら、横でぎりぎりという音が聞こえそうなほど拳を握りしめている中島少佐を見た。
「くそぅっ・・・!!!分かっていながら・・・、こうなることが分かっていながら何もできないなんて!!!」
一方の大田原大佐は表向きは冷静を保っていた。
「海上保安部に巡視艇を要請。海に落ちた人々の救出を。
 そろそろ上がって来るぞ!タワーの職員の避難を再度確認!!」

「ディオガルス、日の出埠頭に上陸!!」
まるで犬がするように体を数回揺すって水しぶきをはねとばした獣王は辺りをぐるりと見渡した後、天に向かって一声咆哮した!
グォォォォォォォォォォォォーーーーーッ!!
その視線の先には美しくライトアップされた東京タワーがそびえ立っている。
軽く身をかがめたディオガルスは帝都の夜のきらめきの中におどり込んでいった。

「ディオガルスはJR線の送電線でチャージしたあとJR浜松町駅を静電砲で粉砕し、まもなく芝公園に達します。
 チャージしたせいか、周囲の電波状況がいっそう悪くなっています。」
望遠で中継されているモニターにもかなり雑音が混じって見え辛くなっている。
夜の中に青白くその巨体を浮き上がらせた獣王はタワーの前で鶏冠を広げ始めていた。

バリバリバリバリバリッ!!!
その口から発せられた静電砲がタワーが直撃した瞬間、タワー全体が無数の電撃を発しながら青白く光る。
次の瞬間、土台に近い部分からまるで飴細工の様にぐにゃりと曲がった。
みるみるうちに地上333mのタワーは折れ曲がり、展望台の部分でぼっきりと折れ、そのまま隣の東京プリンスホテルにまで吹っ飛んでいきそのど真ん中を貫いた!
「あああああっ!!」
モニターを見ている人々の中かから悲鳴にも似た叫び声が上がる。
「やつめ、遊んでやがる!あそこで巣を張るつもりか?!」
「いいえ、ディオガルス、移動を開始!!」
獣王は立った今自分が倒した巨塔の残骸には目もくれず進み始めた。
「どこだ、どこへ向かっている?!」
「東へ・・・海の方角です、大佐。」「海へ?!」
「いや、違います、JR線沿いに北上!!」
「JR沿いだって?!」
「JR線の電線から好きなだけチャージできるからでしょう。っとなると行き先は・・・・」
「まさか・・・皇居か?!!」
みんなが阿須美の方を振り返った。
「ディオガルスは・・・確かに天皇家を恨んでいるかも知れません。
 でもその対象は人間ではないと思います。」
菖蒲がそれにつけ加える様に口を開く。
「もっと神霊的な物ね。
 維新で『天皇の住居』にご都合で定められた今の皇居にあの魔獣が惹かれるとは考えにくいわ。」
「じゃあ一体ヤツどこを目指してるんだ?!」


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