ディオガルスの巣近くのとある家庭
停電した部屋の中を蝋燭の明かりが頼りなく照らしている。 母親があたふたと着替えをバッグに詰め込んでいる横で父親はのんきに先日の新聞を開いている。 何で今頃?ディオガルスの上陸は父親の帰宅時間と重なった。 連絡も取り合えず、公共交通機関も止まって、彼がやっとの思いでわが家にたどり着いたときには、彼の家の側の「ドーム」があったはずの場所には巨大な巣がそびえ立っていたのだった。 彼の身を案じた家族はただひたすら彼の帰りを待っていたのだった。 「お父さんも手伝ってよ!」 「尚子、避難ってどこにどうやって避難するっていうんだい? ラジオもTVもダメ。 おまけにさっき本郷通りまで出てみたが渋滞した車がみんな故障しちゃってるみたいだ。 確か・・・あの巣から出る電磁波とかのせいなんだろうなあ。 それに、これ見て見ろ。 あの怪獣、いったん巣を作ってしまうとおとなしいそうじゃないか。」 「もうっ!!せめて避難所に指定されている近くの公園まで行きましょうよ! 隆一、隆二(長男と次男)あなたたちも準備しなさいっ!」 「お母さん、ぼく、ギターもって行っていいかな?」 「ギター?」 「だっていつまで避難生活が続くかわからないんでしょ? 電気が来ないとテレビゲームもできないし。」 「しょうがないわね、いいわよ。」 2階の自分の部屋で荷造りをする隆一の部屋にやってくる弟。 「お兄ちゃんはギター持っていくんだ。」 「隆二は?」「ぼくはこれさ!」 弟が差し出したのは去年のクリスマスに彼が買ってもらった大きなゴジラのソフビだった。 「こんな時にゴジラかよぅ。 第一、ゴジラはディオガルスに負けたじゃないか。」 「そんなことないよ!ゴジラは必ずディオガルスをやっつけに来てくれるもん!!」 隆二はそう言い残すと廊下をバタバタと走り去った。 「ゴジラか・・・・。」 溜息混じりに荷造りの手を動かし始めた隆一はふとその物音に気づいた。 ガサゴソ・・・ゴソ・・・・ザザザザ・・・・・ 風の音じゃない。 暑くて開け放した窓からは全く風なんて吹き込んでこないのだ。 猫でも屋根の上にいるんだろうか? 彼がベランダに出て様子をうかがって見ようと思って窓に近づいた途端、いきなり黒っぽい大きな固まりが飛び込んできた。 「うわぁぁぁぁぁ〜〜〜〜〜〜!!!」 彼は思わず腰を抜かした。 それはもちろん猫では無かった。 体長50cmほどの大きさの「それ」は以前雑誌で見たダニに似ている気がする。 でも・・・ダニって顕微鏡で見るほどのものじゃあ。 「それ」はじりじりと彼との間合いを詰めてくる。 後ずさりする彼の手に触れた物・・・ギターだ。 「それ」が身をかがめ飛びついてきたその瞬間、彼は力一杯ギターを振り下ろした。 「わぁぁぁぁぁーーーっ!!!」 バァァァァーーーン!!バリバリッ!!!! 確かに手応えがあった。 彼はその瞬間「それ」がスパークするのをみた。 「それ」は一瞬怯んだが、間もなく目にも留まらぬ早さで窓から飛び出していった。 慌てて窓に駆け寄って下を眺めたが、停電した町並みでは何も見えなかった。 「どうしたんだ、隆一?!」 気が付くと懐中電灯を持った父親と弟が部屋の入り口に立っていた。 「お父さん・・・ぼく、ぼく、見たんだ!!!」 そこまで言うと彼はわっと泣き出しながら父親に抱きついていった。
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