立川基地司令室
「大佐、ディオガルスの巣のそばで巨大なダニのような生き物が人を襲ってるらしいという未確認情報が! 現地の部隊が応援を求めています!!」 「ダニ?!ダニだって!!」 「雷電蟲だわ!!」 いきなり大声をあげた阿須美をみんなが振り返る。 「ディオガルスが封印された時に雷電蟲もほぼ同時に都から姿を消したと言い伝えられているけど、きっとディオガルスに寄生したまま封印されていたんだわ!」 「阿須美さん、そのダニの化け物も君が前に言っていた『小魔』の1つなのかい?」 「いいえ、真田さん、雷電蟲は『小魔』ですらないもっと下等な物の怪です。」 「しかし・・・避難は完了したんじゃなかったのか?どうして巣の側なんかにまだ住民が残ってるんだ?!」 「ディオガルスの上陸によって電波障害が発生して情報が徹底していないじゃないかな。」 中島少佐が一歩前に進み出る。 「大佐、私に行かせてください。 電磁界の半径が5kmということは・・・ちょうど十条駐屯地があります。 現地に展開してるのもそこの部隊でしょう。 そこまでヘリで行けば後は何とか。」 「私も連れて行ってください!」 「お嬢さん、これは遊覧飛行じゃないんだぞ。」 「私たち『影』は元はと言えば『光明』の分家。わずかですがその血は受け継いでいます。」 「阿須美さん、まさか阿須美さんも術とかを使えるのかい?」 「いいえ真田さん、本来の『魔』と戦えるような式神の術は無理です。 ただ相手が『小魔』以下なら私でもお役に立てるかと思うんです。」 「よかろう、期待はしないが連れて行ってやろう。」 「少佐、おれも連れて行ってくれ!」 「お前を?銃の扱いは?」 真田は首を横に振る。 「教えてくれ!!」 「役に立たない奴だな。じゃあこの巫女さんの護衛役ってことで同伴してやろう。 足手まといにだけはなるなよ。」 「これが安全装置だ。これを・・・こう外したら後は狙って引き金を引くだけだ。」 ヘリの中で中島少佐に銃の扱いを教わっていた真田は、ふと傍らに座っている阿須美を見た。 物々しい隊員服は小柄な彼女にはおよそ不釣り合いだ。 いや、そういえばあの時も・・・・ 彼は爆破直前の妨害工作をやっていた彼女とばったり出会ったときの事を思い出していた。 あの時彼女に出会わなかったら彼女も島と共に消えていたはずだ。 しかし一人生き残ったために全てをあの小さな肩にしょって・・・。 少女の幼さが残るその横顔ではあったが、自ら「戦いの場」に出向く決意を秘めた眼差しはすでに一人前の大人の女性であるようにも見える。 おれはもしかして彼女のことを・・・・もしかして「男」として彼女のことを守りたいのか? ・・・ってこんな時におれは何を考えてるんだ?!! 真田は場違いな感傷を振り払って想像したよりずしりと重い拳銃を握りしめた。
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