陸上防衛隊十条駐屯地
着陸したヘリから次々に降りる隊員達。 真田と阿須美もそれに続く。 駐屯地の中には次々と担架にのせられた被害者が運び込まれてきていた。 「中島少佐です。状況は?!」 「駐屯地を一歩出ると無線が使えなくなるので、電磁界の中の隊員達とは直接連絡が取れない状況です。 戻ってきた隊員によると吸血ダニは本郷のこの一帯に出現しているようなのですが。」 「被害者の数は?!」 「40名を越えました。かなりの血を吸われており、内12名はすでに亡くなっていました。」 阿須美が思わず口を押さえた。 「どうされます少佐、ここから巣までは6kmも。 主要幹線道路はほとんど電磁波で止まった車が塞いでいます。 もちろん我々の車両とて同じなのですが。」 「行くしかあるまい。指令、自転車を人数分用意して貰おう。できれば案内も1名欲しい。」 自転車をこぎながら阿須美が話し始めた。 「雷電蟲はディオガルスの鬣に寄生すると言われています。 ディオガルスの血を吸う代わりにディオガルスに雷の力を手渡すと。」 「『雷の力』?」 「平安の世にあった電気と言えば雷しかなかったでしょう? おそらくは落雷の電気を体に蓄えてディオガルスに送っていたのかも知れません。」 「それが何で人間を襲うんだ?!」 「雷電蟲は増えすぎるとディオガルスの血にありつけず、夜な夜なディオガルスの体から離れ人を襲うのだそうです。」 二十数分後、彼らは無事現地部隊に合流した。 辺り一面は停電して真っ暗な闇の中に巨大な巣が不気味な青白い光を放ってそびえている。 「中島少佐だ。状況はどうなっている?」 「至近距離なら小銃ででも頭を打ちぬけば仕留められるのですが、やつら神出鬼没でいったいどこに現れるやら。 ただですら停電で目視も困難でして。」 「避難の状況はどうなっている?せめて一カ所に集めれば守るのも容易いはずだが。」 「数カ所の避難場所には護衛をつけました。 でもまだ相当数が残っている様なのですが、停電のせいでどの家に人がいるのやら。 悲鳴を聞いて駆けつけるなんてことをやっていたのでは埒があきません。」 「むぅっ・・・・。」 さすがの少佐も黙り込んでしまった。 「どこか広い場所はありませんか?そう、公園とか。」 「どうしようってんだ、阿須美さん?」 彼女はずっと首にかけていた首飾りを外し、それについていたいくつかの不思議な色の勾玉のうちの1つを手にとった。 「紅匂玉。これは強烈な血のにおいを発します。『小魔』やその仲間の多くは血を好むものが多いのです。 これで奴らをおびきよせますからそこを一挙に叩いてください!」 「他に策もない。もたもたしていると犠牲者が増える一方だ。今回はお嬢さんを信じよう。」 「広場なら東大のグラウンドが。」 阿須美がグラウンドの中央に勾玉を置く。 「各員、散開!」 物陰に隠れる隊員たち。 阿須美が不思議な形に指を組み返しつつ呪文を唱え始めた。 「楚律吽贅伽羅玉莎呵!楚律吽贅伽羅玉莎呵!楚律吽贅伽羅玉莎呵!・・・・」 やがて勾玉からは怪しい紅い光とともに煙が立ち昇り始めた。 「うっ、何て血生臭い!こりゃあ確かに強烈だ。」 「少佐、来ました、やつらですっ!!」 暗闇の中からいずこからとも無く集まってくる雷電蟲の群れ。 「いったい何匹いるんだ?!100匹は下らないぞ。少佐、撃ちますか?」 「まだだ。もっと集まってきてからだ。全員手榴弾を投げると同時に一斉射撃だ!」 その群が勾玉を取り囲むように1つの固まりになったその時・・・ ズドドーーン!!「撃てぇ!!!」 雷電蟲たちは手榴弾で粉みじんになって吹き飛ぶか、銃で撃ち抜かれて折り重なるように倒れていく。 その瞬間発するスパークであたりはまばゆく照らされた。 呪文を終えふと振り返った阿須美が突然悲鳴を上げた。 「きゃぁぁぁぁっ!」 どこにいたのか一匹の雷電蟲が阿須美の背後に忍び寄っていたのだった。 真田は慌てて阿須美の前に立ちはだかりピストルを・・・「しまった安全装置を!!」 まさにそれが身をかがめ彼らに飛びかかろうとしたその時、一発の銃声とともに雷電蟲の頭は吹き飛んだ。 二人が顔をあげるとライフルを構えた中島少佐が立っていた。 「本当に役に立たない奴だ、お前は。」 「これで全部なのか?」 阿須美は黙って手をかざしあたりの「気」を探る。 「今夜巣を出た雷電蟲はこれで全部です。これでやっと・・・」 そこまで言ったところでがくんと崩れ落ちた彼女を真田は思わず支えた。 「こんな小さな体で・・・・。」 「お前はこのお嬢さんを連れて駐屯地にもどれ。護衛を1人つけてやる。 おれはこのままここに残って警戒にあたる。」 「ああ、わかった。」 少佐の言うとおりやっぱり役には立たなかった。 しかし真田はその腕に抱いた阿須美の重みにどこかしら幸福感すら覚えていた。
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