十条駐屯地の一室
駐屯地の指令は阿須美に気をきかせて雷電蟲の犠牲者で溢れる医務室とは別室を用意してくれた。 「彼女、気が付きましたよ。」 女性隊員が部屋の前に突っ立っていた真田に声をかけてくれた。 「でも・・・あの子・・・。」 「えっ、どうかしましたか?!」 「ううん、何でもありません。後はよろしくお願いします。」 彼女は軽く会釈して去っていった。 真田が静かに部屋に入ると阿須美はベッドの上に起きあがっていた。 さっきの女性隊員が着替えさせてくれたのか、彼女の服装はゆったりした白いシャツとズボンに変わっていた。 「大丈夫なのかい、阿須美さん?」 「ええ・・・、『術』を使うときには精神力を極限まで使うので、私みたいな未熟の『影』は意識を失っちゃうんです。」 「未熟なんてとんでもない!君は立派にやり遂げたじゃないか!」 「真田さんが・・・私をここまで?」 「え、ああ・・・・。役立たずのおれにできることはそれだけだった。」 「・・・・・ありがとうございます。」 そう言った後、阿須美は何故かうつむいてしまった。 「どうかしたのかい、まだ具合が・・・?」 「真田さん・・・・私の裸見ました?」 「裸って・・・・はははは、何言ってるんだよ。 着替えさせてくれたのはさっきの女の人だ。」 「・・・よかった。」 年頃の女の子なら男性に裸を見せたくないのは当たり前の感情だろう。 そういえば阿須美の「女の子らしい」言葉を初めて聞いた気がする。 「いいえ、そんな意味じゃないんです。」 「何のことだい?」 「私たち『影』はこの『くに』の人間じゃ無いんです。」 「阿須美さん、改まっていったい何の話だい?」 彼女は真田と視線を合わさないまま話を続けた。 「私たちの祖先は遠い所からこの『くに』にやってきて住み着きました。 『くに』の人たちと交わりながら地方に散っていったのが私たち『影』。 私たちにはそれぞれ祖先の名残の『徴(しるし)』があるんです。」 「阿須美さん、いったい何を言いたいんだ?!『遠い所』?『徴』??」 阿須美は黙ったまま片腕をすっと上げ天井を指さした。 「天?・・・まさか宇宙?!!君たちは宇宙から移り住んだと言うのか?!! ウソだろ?!だって君はどう見たって普通の女の子だ!」 阿須美はその質問には答えなかった。 「真田さんにだけはお話ししておきたかったんです。 あの日怪獣島で真田さんが助けて下さらなかったら私・・・、ちゃんとお礼も言ってなかった。」 「阿須美・・さん・・・。」 「一つだけお願いがあります。 もし私が死ぬようなことがあったら、私の裸をこの『くに』の国の人々に見せないと約束して下さい。」 そう言いながら真田の方に向き直った彼女の目から涙がこぼれ落ちた。 そしてゆっくりと胸のボタンを1つづつ外し始める。 「もういいっ!!見せなくっていいっ!!おれが今度こそは守ってみせる! 阿須美さんを死なせなんて絶対しないから!!」 真田は思わず阿須美を抱きしめていた。 腕の中の阿須美は目を閉じ真田に体を預けていった。
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