職にあぶれてくさっていた金城を伴って2人が鵺島に向かっていた頃、怪獣捜索にあたっていた防衛隊の潜水艦に小さな事件が起こっていた。
艦の電子機器が一斉に停止、しかも蓄電池が完全放電したのだった。
「レーダーには何も映らなかったのだな?」
「ええ、いきなりでしたが直前までは何も。」
「では怪獣島作戦とは無関係だ。機関トラブルとして報告書を提出しろ。」
「しかし少佐・・・、だとしても蓄電池が瞬時に放電するなんて通常では・・。」
「くだらん!そんなことは隊の電気技師にでも相談しろ!!」
この一件を握りつぶした中島は間もなく自らのミスを後悔することになる。
鵺島、空船遺跡・・・・
「これが空船遺跡か。まるで・・・筏だな、これは?
まさか、巨大な筏に乗せて京都からここまで運んできたってんじゃ無いだろうね。」
「空船がどうやって使われたものかは・・・伝わっていないのです。
ただ、『空船にて獣王を導きて・・』と伝えられているだけで・・・。」
「『導く』?じゃあ乗せたんじゃないのか?」
三人が呆然とその遺跡を眺めていたとき、その影から1人の人影が。
サングラスをかけ上はタンクトップ、下は半ズボン、トレッキング・シューズで背中にDパックをしょった女性が手を振りながら彼らに近づいてきた。
「あら、驚いたわ。ここを訪れる人が他にもいるなんて。」
訝しげに顔を見合わせる三人に、彼女はDパックの中から名刺を取り出して彼らに差し出した。
「私は伊集院 菖蒲、西都大学の歴史学教室の講師。
まさかあなた達もこの遺跡を見に本土から?」
「元怪獣島の主任補佐の真田です。こいつは技術主任だった金城、こっちは阿須美さん。」
「怪獣島?ああ、この前怪獣ごと爆破された島ね。その人達がどうしてここへ?」
真田達は言葉を詰まらせた。
「まあいいわ。ねえ、これがいったい何に見える?」
「筏・・・ですかね。」
「形はね。でもこれ陶器なのよ。
筏ならまさか陶器じゃ作らないでしょう。
実はこれと似たようなものが日本の各地で見つかってるの。
それがここみたいな島だけじゃない、山の中だったりもするのよ。
山の中に筏は要らないでしょう?
さらに不思議なことにそれらは全部平安京の頃に作られたものなのよ。
でも京都にはこんなものが作られた記録は一切残ってないの。」
菖蒲は一気にまくしたてた。
「これは空船、獣王を京の都からここ鵺島まで導くのに使われたんです。」
「え、何?何て言ったの??」
「獣王。多分巨大な怪物らしいんです。
この阿須美さんはこの島でその怪物の封印を守ってきた巫女さんなんですよ。」
「巫女さん?!まあっ!だったらこの遺跡・・・空船って言うのか。
これについて何か知ってるんでしょう?」
阿須美は頭を横に振る。
「私が小さい頃から聞かされてきたのはそれだけなんです。」
「4人でこの前で唸っていてもしょうがない。どこかで休みませんか?
島にサ店は無さそうだけど。」
「この先に小さな茶店があります。」
茶店で休憩する4人。
「先生はあの遺跡が何だって思います?」
「先生はよしてよ。菖蒲でいいわ。まずはこれを見て。」
菖蒲はDパックから数枚の写真を取り出してテーブルに並べた。
「こ、これはっ!!」
そこに写っていたものは確かに空船遺跡によく似ていた。
地中にほとんど埋もれているもの、風化して半ば崩れかけているものもあったがほとんどそっくりと言えば言えそうなほどであった。
「謎なのがこれを形作っている丸太状のものが、それぞれの遺跡で太さや長さがまちまちで一定の法則がないのよ。
でも阿須美さんの言葉でひらめいたことがあるわ。」
「で・・・・?!」
「あれは打楽器なんだと思うの。
あの丸太状のものは今はほとんど砂が入り込んでしまっているけど、あれが中空だったらけっこういい音がしたはずよ。」
「でも菖蒲さん、もしですよあれが打楽器で、阿須美さんの言うとおりにあれを打ち鳴らしながら京都からここまで誘導してきたとしたら、たとえ夜だとしても相当人目に付きますよ。
だったら何か記録が残っててもよさそうなもんじゃ。」
「そっかぁ、いいアイデアだと思ったんだけど。」
退屈した金城がふざけてストローを噛み潰して笛のように鳴ら して遊び始める。
それを見ていた阿津美の目が輝く。
そのストローをひったくりにっこりと微笑む。
「そう、そうなんだわ!あれは・・・あれは笛なのよ!!」
「笛、あれが?!!」
「あの中空の丸太のようなものを複数組み合わせて獣王を誘導する音色を発したんだわ!!」
「そりゃいいとして・・・あんな巨大な笛を誰が吹いたんだい?」
「『光明』の血を継ぐ者なら局地的な風を起こすことなど造作も無かったはずです!」
「・・・で、まさかあれを復元して、巨大な送風機と供に空から吊ってディオガルスを誘導するのかい?」
その時金城がはっとひらめく。
「何言ってるんだ真田、構造物の大きさから3Dシュミレートして音を出すぐらいなら何とかできるぞ。」
「データならとってあるわ。」
菖蒲はDパックの中からノートパソコンを取り出してスイッチを入れた。
そこに3DCGで描かれる空船遺跡。
金城が自分の持ってきたノートパソコンと菖蒲のそれを繋ぐと猛烈なスピードでキーをたたき始める。
「あれから1時間も経たないのにもう完成?金城君、すごいわ。」
「へへへ、あとはマウスを操作して風の向きと強さを調節すればと・・・」
「おい、それを見つけるのって大変じゃないか?」
「ふん、金城様に任せておけってんだ。自動的にデータを取って保存するプログラムも完了済みだ。
ほうれ、ポチッとな。」
パソコン上でめまぐるしく数字が走り始める。
「しかしいくら自動って言ってもチェックするのは手作業じゃないの?」
「そんなことは先刻承知。解析も自動でやってますから。
きっと何か一定の法則が・・・・・あれっ?!」
「どうしたんだ、金城?!」
「これだ、この方向だ!」
「何がどうしたって?!!」
「見てくれ、この方向からの風だと、音はほとんど人間の可聴域の外の音なんだよ。
待ってろ、今鳴らしてみる。」
「ねえ金城君、これで『鳴ってる』の?」
「菖蒲さん、ほとんど人間の耳には聞こえないはずですから。」
「何だか心配だなあ??」
その時、島のあちらこちらから多数の犬やネコの声が 聞こえ始める。
「おい、金城・・・これって???」
「なあ、おれの言うことを信用しろって。」
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