「こちら百里のF、隊長機です。
 間もなく父島上空、目視で巨大トンボの群を確認!
 発砲許可をお願いします。」
「発砲を許可する。島には外出禁止令は出ているが、くれぐれも誤射の無いよう。」
「ラジャ!」
「全機おれに続け!トンボ釣りの始まりだ!!」
茨城県百里基地から飛び立った6機の空防のF15は20mm機関砲を乱射しながら群の真ん中に突っ込んでいった。

「くそうっ!!いまいましいやつらめ!!」
戦車の装甲をですら切り裂くバルカン砲の発射速度は毎分4000〜6000発。
命中すれば鬼秋津(メガニューラ)など瞬時にバラバラになって落下していく。
ただその動きはあまりに敏捷だった。
「隊長、これはFの仕事じゃない!ヘリ部隊の方がよかったんじゃないですか?
 まるで手掴みでトンボを捕ってるようなものです!!」
「弱音を吐くな!!何匹落とした?」
「十数匹でしょうか。」
「おれも二十ぐらいだ。」
「少しは減ったんでしょうか?!」
「だいぶ地上に逃げ込んだようだ。やつら、地上まではおれ達が追えないことを分かっているようだ。」

「百里基地、こちら隊長機。200匹前後は撃ち落としましたが、残りのヤツは島の森の中に隠れてしまいました。」
「ご苦労だった。
 そちらに海防さんの空母「ふじ」と駆逐艦「はやせ」が向かっている。
 いったんこちらに戻って首都防衛に備えてくれ。」
「首都防衛?!」
「陸防からの未確認情報だが、夕方になると今度はコウモリのバケモノが飛んでくるそうだ。」
「コウモリ・・・ですか?」
「トンボは前座らしい。」
「ラジャ!」

夕刻、第二艦隊旗艦、空母「ふじ」艦橋

艦長、田村少将は発進していく戦闘機に敬礼しながら傍らの副長、大山中佐に尋ねた。
「副長、トンボ退治はどうなっている。」
「1時間ごとにFを上げていますが、まるでいたちごっこです。」
「そろそろ日没だ。陸防からの情報だとコウモリのバケモノが出てくる筈だが。」
「パイロット達には伝えてありますが、まだ姿は見えないようです。
 しかし、ディオガルスに、巨大トンボ、さらにはコウモリだなんて。
 わが国はどうなってしまうのでしょうか?」
「どうさせないのが我々の勤めだ。」
大山中佐はじっと島を睨む田村少将の横顔を見つめた。
少将の息子さんは確か浦賀水道で轟沈した第一艦隊の戦艦「あけぼの」に乗っていたはず。
彼の心中は察するに・・・・

「艦長、通信室からです。巨大コウモリの群が出現したと!回線繋ぎます!!!」
「翼長は数m、数は・・・・2〜30、いや、もっといます!!」
「かまわん、片っ端から撃ち落とせ!本土に飛ばせてはならん!」
「ラジャ!!」

「隊長!こいつらバルカン砲じゃ効きません!」
「サイドワインダーを使え!!」
「動きが早くてロックできません!!・・・・・うわぁぁぁぁぁっ!!!」
「どうした3号機!」
夕暮れの空を紅く染める爆発。
「やられたのか、何故?!!」
その時彼の機の真正面に黒い影が!
「こいつめ!!!」
バルカン砲を乱射する彼はかすかにその甲高い鳴き声を聞いたような気がした。
キィィィィィッ!!!
ピシピシピシッ!!
次の瞬間戦闘機の風防に無数の亀裂が走る。
「な、何っ?!!」
機体を激しく揺らす振動を感じた後、最後に彼が見たのは機体から離れてゆく主翼だった。

「艦長、Fが次々とレーダーから!群は本艦に向かってきますっ!!」
「何なんだ、何が起こっている?!追撃を直ちに上げろ!!
 『はやせ』に高射砲で狙い撃たせるんだ!!」
夕暮れの空をバックにその黒い群は近づいてくる。
キィィィィィーーーーーーッ!!!
乗組員達はその耳をつんざく甲高い鳴き声に思わず耳を覆う。
ピシピシピシッ!・・・・・・パァァァーーーーン!!
次の瞬間、艦橋の全ての窓が割れ粉々に砕け散った。
さらに巨大な影は次々と飛行甲板に舞い降り、乗組員を掴んでは飛び去っていく。
「甲板にいる者を中に!!『はやせ』は何をしているっ?!!」
すぐ横の駆逐艦「はやせ」を見た艦長は思わず叫びそうになった。
最大仰角の高射砲が次々とだらしなく脱落していたのだ。

成す術もなくその群が飛び去るのを呆気にとられて眺めていた艦長は慌ててマイクを取る。
「巨大コウモリ約4〜50羽、本土に向かって飛行。
 相当数の巨大トンボもそれに追従。
 戦闘機は次々と撃墜され、駆逐艦『はやせ』も戦闘不能!!」
「艦長、これはいったい・・・・あの鳴き声が何か・・・?」
「わからん!だがただ巨大なだけのコウモリでは無いということだ!」


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