立川基地
「大佐、海防からの情報です。 1800小笠原父島より巨大コウモリ4〜50羽、及び巨大トンボ相当数が本土に向かって飛行中とのことです。 迎撃に上がったFはいずれも空中分解して撃墜され、同行した駆逐艦『はやせ』も砲を破壊され戦闘不能と。」 「空中分解!いったい何の話だ?」 「それ以上の詳しい情報は入っていません。 海防は浦賀水道に第一艦隊の残る艦船を集結して対空迎撃の準備中。 空防もいつでもスクランブル発進できる状態を取っているとのことです。」 「わかった。ついに来るのだな、呼び起こされた『魔』が。」 大佐の視線を感じた阿須美は静かに語りだした。 「魅霊蝙蝠は竹林に住み人の血を好みます。 人の頭だけを噛みちぎりそこから血を吸うのだそうです。 竹林に戻ってきた彼等の口からは血が滴り竹林を血で染めることから紅竹蝙蝠とも呼ばれるのです。 鬼秋津も肉食性の巨大トンボ。 彼等は人だろうが動物だろうがお構いなしに生き物なら何でも食べたそうです。 鬼秋津は昼の『小魔』、魅霊蝙蝠は夜の『魔』。」 「歴史書にはない『歴史』ね。」 「菖蒲さん、彼等の姿を見た人は当然餌食となったはずですし、たとえ命拾いしたにせよ誰もそんな話は信用されなかったでしょう。 首切りで処刑されたなにがしかの怨霊が夜な夜な京の街をうろついて人の首を切って回るという話の方が受け入れられやすかった時代だったのかも知れません。」 「自然現象だって『鬼』や『物の怪』のせいにしちゃった時代だから、その逆も有りっていうわけね。」 「ともかく彼等が現れたとき、京都の通りからは人の姿が消えたのだと。 そういえば・・・・ああっ!」 「どうしたんだ、阿須美さん?!」 「外に避難してる人たちを屋内に!人が集まっている場所は真っ先に鬼秋津や魅霊蝙蝠に狙われます!!」 十条駐屯地 昨夜は徹夜で戦闘服のままベッドに倒れ込むように眠りこんでいた中島少佐を若い隊員が揺り起こした。 「ん・・・どうした?」 「少佐、立川基地からの連絡です。避難民を速やかに屋内に移動せよとのことです。 そのまま終日の外出禁止令を徹底しろと。」 「屋内に?今日一日かけてようやく家に閉じこもってる連中をかき集めたばかりだぞ。 明日はそろって電磁波の圏外まで遠足の予定だったのに。」 「小笠原から巨大なトンボとコウモリが本土に向けて飛行中だとの事です。 そいつらが昼夜を問わず人を襲うのだと。」 「あの巫女さんが言ってた『魔』か。大きさは?」 「聞いておりません。」 「わかった、ただちに避難民を最寄りの学校や公共施設に移動させろ!! 居眠りする間も無しか。」 ベッドから起きあがった少佐は溜息混じりに、ベッドの傍らに投げ出してあったヘルメットを拾い上げて被りなおした。 再び立川基地 「大佐、まもなく空防が伊豆大島付近の上空でコウモリとトンボの群と交戦状態に入る模様。画像、届きます!」 全員が中央のモニターに見入る。 赤外線カメラのモニターに写る黒い群の中に空防のFがバルカン砲を乱射しながら突っ込んでいく。 群はさっとちりぢりとなってこれをかわす。 と、いきなり先頭のFががくんと機首を落とし次の瞬間にバラバラになって火を噴いた。 「何だ、何が起こっている?!!」 みなが唖然としている目の前で残る機も次々と空中分解して墜落していく。 「どうしたんだ、空防は何て言っている?!!」 「混乱しているようで・・・え?鳴き声?!!」 迎撃に上がったFの姿が見えなくなるのには数分とかからなかった。 遮る物が無くなった黒い影は再び群となって飛び去っていく。 「海防からの画像に切り替えます!」 夜空を染める閃光弾の雨。 群はあっという間に分かれその弾幕をすり抜けていく。 「来た!!」 阿須美はじっと天を見上げる。
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