深夜 池袋 某宝石店前

「なあ、アニキ、ホントにだいじょうぶかなあ?」
大島一郎は神経質そうにまわりを見回しながら、一生懸命シャッターをこじ開けようとしている兄貴分の山本政夫に声をかける。
いつもは明かりが消えない街は停電して真っ暗で、行き交う人もなく物音すらしない。
「何がだよ?みんな避難しちまって人っ子一人いねえ。
 おまけに停電してるから警報装置も鳴らないはずだしよぉ。
 もっとも鳴ったところで駆けつけてくる警官も逃げちまってるだろうが。
 よしっ、手を貸せ!」
二人はシャッターを押し上げる。
ガッシャーーーン!!
山本がためらいもなく入り口のガラスを金槌で破る。
闇と静寂に包まれた街ではその音は思いの外大きく響き、大島は思わず肩をすくめた。
「ほれ見ろ、警報は鳴らねえだろう。
 何びくついてるんだよ!さっさとお宝を頂くぞ。

それから30分後、店内のめぼしい宝石を洗いざらい詰め込んで重くなったバッグを抱えた二人は路地を急いでいた。
「へへへへ、アニキ、ちょろいもんだな。」
「何だお前、さっきとずいぶんと調子が違うじゃねえか。」
「だってよぉ、これだけあったら当分は楽して暮らせるぜ。」
「さっさと金に換えて外国にトンズラさ。
 キンパツのお姉ちゃんとよろしくやれるぜ!!」
「ひっひっひっひっ・・・、楽しみだなぁ、そりゃあ!」

キィィィィィーーーーーッ!!
その甲高い声を聞いた二人は思わず立ち止まった。
「アニキ、聞こえたかい、今の声?」
「あ・・・ああ。でもたかがでっかいコウモリだろう?ビクつくんじゃねえよ!」
その言葉とは裏腹に我先に二人は闇雲に走り出した。
バサバサという羽ばたきの音が近づいてきた次の瞬間、二人はいきなり後ろから何かに捕まれて空高く舞い上がった!
「ひぇぇぇぇっ、アニキィ、と、飛んでるぜ!!」
「こ、こりゃあいったい!!」
ふと彼が見上げたところには魅霊蝙蝠の真っ赤な口が開いていた。

十条駐屯地 屋上

「どんな具合だ?」
屋上から超望遠の暗視カメラで巣を観察している隊員は少佐に向き直って敬礼する。
「はっ、ご覧になりますか?」
青白く発光する巣の至る所に巨大トンボがびっしり張り付いている。
「ここから届く銃があるなら片っ端から撃ち落としてやりたい気分です。」
「コウモリはいないな。」
「餌を求めて飛び回っているようです。で、避難民の様子は?!」
「伝令すら出せない状況だ。どうなっているのかさっぱりわからん。」
「完全にやつらに乗っ取られましたね。
 しかしこんな状態がいつまで続くんでしょう?
 食料の補充だってできません。
 それにもし病人とかが出たら・・・・。」
「何とか・・・何とかしなければならないのに、くそうっ!!!」

立川基地

大田原大佐は腕組みをして司令室のモニターを凝視していた。
顔には明らかに苦渋の表情を浮かべながら。
「大変なことになってしまった。
 今までの怪獣の被害と言えば、怪獣の移動による破壊だけだった。
 人々を避難させ迎撃する。
 今回はそのセオリーが全く通用しない相手だ。
 攻撃はもちろん避難まで、それどころか電磁界の中との連絡が全く断たれてしまうとはな。」
「特装部が電磁波遮断装備をした装甲車を準備中と聞きましたが。」
「道路は車で埋まってるんだ。そんなもの走らせる場所がどこにある。
 たった『小魔』と『魔』の1セットが来ただけでこれだ。
 この先こんなやつらがどんどん増えてきたらいったいどんなことになるというのだ?!!」


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