長い夜が明けた。

立川基地

「どうなっとる、状況は。」
「日の出と共にトンボ達は飛び始めました。コウモリ達は巣に戻っています。」
画面がズームされると蒼白のはずの巣にはあちこち紅い汚れが見える。
阿須美があっと叫びながら顔を覆う。
「外出禁止令は徹底しなかったのか。
 大至急ビラを用意して上空からまかせるんだ!
 トンボの方だって人を襲うんだろう。」

十条駐屯地 屋上

「おはようございます、少佐。よくお休みになれましたか?」
「眠っている状況では無かったのだが、前日は徹夜だったからな。で、どうだ。」
少佐は胸ポケットからタバコの箱を取りだし1本をくわえ火をつけた。
「コウモリと入れ替わるように早朝からトンボが活動を始めました。
 巣に・・・かなりの血痕が見えます。」
「血痕?襲われた者がいるのか?!数は??!」
「わかりません。見えるコウモリのほとんどが血を滴らせているようですから・・・・」
「ちぃっ!!」
少佐はくわえたばかりのタバコをたたきつけて踏み消した。
「こうしている間にも犠牲者はどんどん増えていっているかもしれないのに!」

立川基地 午後

「ねえ、金城君、変だと思わない?」
「え、何がですか、菖蒲さん?」
「確か京都の時もディオガルスが御所に巣を張ってから丸一日あったのに鬼秋津も魅霊蝙蝠も目覚めなかったのかしら?」
「それはやっぱり乱れ飛んでる電波や電磁波の・・・・」
「たかが首都の電波が止まっただけで?
 考えてもみなさいよ、きっと電波としてはタワーとこの半径5km以内の放送局の電波が止まった外では、連絡を取ろうとしてる人々の電波で溢れかえっているはずじゃない。」
「あ、そうかぁ・・・。とすると・・・・・、まさか、airZ-wave?!」
「そう、私も同じ事を考えていたの。確かにディオガルスは自分と『違う』電波は嫌うわ。
 だからそれの溢れた東京に来た。そこまでは合っていると思うの。」
「そこでairZ-waveを感じてしまった!」
「そう、自分の魔を呼ぶ声を邪魔してるものの本体を見つけたのよ!!」
「airZ-waveがきっと直接的にディオガルスと深い関係があるんだ!!
 でも、どうやってairZ-wave計画の研究者達と連絡を取るんです?!
 彼らもきっと避難して・・・」
「ウチの大学からも参加してるって言ったでしょ?その内の1人は私の恋人。
 ちょうど君たちと出会ったあの日、彼から電話があったの。
 『夏休みで京都に帰ってきている。会いたいから帰って来い。』って・・・・。」
「こ・・恋人?!」
「彼が言うことはいつもおきまり。『結婚しよう。』『一緒に東京に来てくれ。』
 アラ、ごめんなさい。脱線しちゃったわね。これから彼に連絡を取ってみるわ。」
金城の顔は今にも泣きだしそうなほどなさけなかった。


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