また闇がやって来ようとしていた。
基地の屋上で真田はぼんやりと夕日を見ながら阿須美とのことを思い出していた。 と、同じ屋上に座り込んでいる人影。・・・・金城?!! 「どうしたんだ、おいっ?!!何だ、泡盛なんかどこから?!!」 「ヒック、さっき基地の外の酒屋で買ってきた。お前も飲むかぁ?」 真田は金城から泡盛の酒瓶をひったくる。 瓶はほとんど空っぽだった。 「基地の中は禁酒だろう?!それに酒に強いはずのお前がどうしてこんなになるまで?」 「わはははは、失恋しちまったぁ〜〜い! 男、金城、女の子にはわき目もふらず技術屋一筋、初めて恋した人に振られちゃいました〜〜〜!!」 「何のこと言ってるんだよう?」 金城は焦点の合わない目で真田を見つめた。 「菖蒲さんは美人だよなあ。頭もいいし、オッパイだって大きい。 あんな人を世の中の男が放っておくわきゃないよなあ。 金城健治、不覚でありましたっ!ぎゃはははははは!!」 失恋か・・・おれも同じ様なものかもしれない。 「何だよ、そのツラは?お前は阿須美ちゃんがいるじゃないか?? おれのこと哀れんでるのかぁぁぁ?!」 「違うよ、彼女は・・・・」 「何やってんのよ、探したわよ!!」 ふと振り向くと頬を膨らませた菖蒲が二人を睨み付けて立っていた。 「連絡とれたわ。airZ-waveのデータもさっき送って貰ったわ。 うっ、お酒くさ〜い!あっきれたぁ!何で酒なんか飲んでるのよ、金城君?! あなただけが頼りなんだから!!」 「えっ?おれが・・・頼り?!」 「飲むんだったら今度は私も誘いなさい!!ホラ、立って!!」 複雑な表情をした金城は引きずられるように菖蒲に連れ戻されていった。 一人取り残された真田はもう一度振り返って沈みゆく夕陽を見つめた。 基地の一室 金城が操作するパソコンをのぞき込む菖蒲、真田、阿須美。 「これが屋上のアンテナで採取したこの辺りを飛び交う電波。 通常一般的に使われる周波数のものをどんどんフィルターで除去していくと・・・」 モニターには一本の正弦曲線が残る。 「これが・・・ディオガルスの発している電波なのか?!」 「わかりやすくこう表示してるだけでもっと本当は複雑なんだけどね。 これに無理矢理音を付けてみるとだな・・・」 オォォォォォォ〜〜〜〜〜ゥ 「まるで犬か狼の遠吠えだな。」 「ああ、やっぱりディオガルスは『呼んでいる』んだろうな。 で、これが菖蒲さんの恋人に送って頂いたairZ-waveの電波。」 菖蒲が金城を肘でこづく。 「全然違うじゃないの。」 「周波数も含めて全く違いますからね。 ところがもしこれが同時に発せられたらとするとですねえ・・・」 パソコンの画面上で二つの曲線が重なると・・・それは一本の直線になった。」 「これって・・・・どういうこと?!」 「互いが打ち消し合って消えちゃうんですよ。 菖蒲さん、カレシが電波関係なら『カウンター・ウェイブ理論』って聞いたこと無いですか?」 むっとした菖蒲はいきなり金城の頬をつねり上げた。 「しつこい人ねえ!知らないわよぉ!!!」 「イテテテテテ・・・・。 20世紀の終わりに、特殊な周波数同士の波動がぶつかると相互に打ち消し合って消滅する事が証明されたんです。」 「そんなこと何かの役に立つのかよ?」 「軍事的にって話はあったんですが、実用化はされなかったみたいだ。」 「それにしても不思議な偶然ね。1000年以上の時を経て蘇った魔獣が発する電波と、最新の電波が互いに『カウンター・ウェイブ』同士だなんて!」 それまで黙って金城の説明に耳を傾けていた阿須美が控えめに声をあげた。 「金城さん、そのairZ-waveの波形って、前に空船遺跡で見せてもらった波形と似てる気がするんですけど。」 残る3人は思わず顔を見合わせる。 「確か空船シュミレーターのデータが・・・・。 これを変換して重ねると・・・・・お、同じだあ!!!!!!」 「音波と電波だから全く周波数は違うけど、自らの『魔を呼ぶ声』を打ち消すこの波形にディオガルスが引きつけられるのは間違いないってことだね。」 「ってことはだよ金城、これを使えばディオガルスが魔を呼び集めるのを邪魔することはもちろん、首都圏から離れたところに作ればもう一度誘導だってできるんじゃあ?!」 「『空船シュミレーター パート2』かあ!」 「あるいはディオガルスのやつ、この波形そのものが弱点なのかも知れないわ。」 「我々にはまだチャンスが残されているんだ!!」
|