秋田県 鹿角市 AM2時頃

ズズズズズ・・・・・・・
「父ちゃん、まただ。今朝からいったい何回目の地震だろう?」
今年小学校6年生の金子直也は横に寝ている父親の直道の方を見た。
「直也、子供が起きてる時間じゃないぞ。」
「だってぇ、こんなに地震ばっかり続いたら眠れないよ。」
「男の子のくせに怖いのか?」
「そんなんじゃないよ!」
直也はぷぅっと頬を膨らませた。
「確かにTVじゃでっかい地震の心配は無いって言ってたが。
 そういやぁ十和田湖の水位が一晩で5mも下がったって話だし、何かの前兆かなあ?」
「東京に来た怪獣みたいなのが秋田にもいるのかな?」
直也は目をキラキラさせながら布団の上に起きあがった。
「お前何だかうれしそうだな。
 怪獣が出てきたら食われちゃうかもしれないんだぞ。」
「悪い怪獣はゴジラがやっつけてくれるよ!」
「秋田に怪獣なんぞは住んでおらん!」
大声を上げたのは父の向こう側に寝ていた祖父の直一郎だった。
「お父さんまで起きていたんですか。」
「おじいちゃん、どうしてそんなことがわかるのさ?」
「怪獣ってのはのぅ、大東亜戦争で太平洋に散った英霊達の魂が、国が恋しくて戻ってくるのじゃ。」
「やれやれ、ま〜た、お父さんのお得意が始まった。」
「ばかもん!そんな不遜ことを口にするから怪獣達は怒ってわが国をこらしめにくるのじゃ。」
「でもおじいちゃん、何も太平洋から来る怪獣ばっかりじゃないでしょ。」
「直也、海と日本の地下は秘密のトンネルで繋がっとるんじゃよ。」
「直也、おじいちゃんの話最後まで聞いてると明日の朝、起きられないぞ。
 さっさと寝なさい!」

父親に言われて直也が渋々布団を被りなおしたその時だった。
ガサガサガサガサガサ・・・・・・・・・
三人は同時に跳ね起きた。
「お父さん、何あれ?!!」
「さ・・さあ、わからん。」
直道は抱きついてきた息子を抱きしめる。
ガサガサ・・・・ガサ・・・・ガサガサ・・・・・・・・・
彼が息子を抱いたまま立ち上がって部屋の蛍光灯に手を伸ばそうとした瞬間、
ザザザザザザザザ・・・・・・
開け放った窓から黒っぽい物が入り込んで来たのだった。
「ヒェェェェェ〜〜〜〜〜〜ッ!!!」
それは巨大なゲジゲジの様な生き物だった。
多数の長い足で体を支えるそれは腰を抜かした直道にじりじりとにじり寄ってくる。
「お父さん、怖いよっ!!!」
その時だった!
直道の目の前に床の間に飾ってあった日本刀を握りしめた祖父が立ちはだかった。
「おのれっ、物の怪めっ!!わしの息子や孫に手出しはさせんぞぉ!!」
鞘を払った直一郎が刀を一振りする。
バサバサバサ・・・・
切断された数本の足が散らばる。
そしてそれはあっと言うまに窓の外へ逃げ去っていった。
そのまま窓に駆け寄った祖父が思わず叫び声を上げた。
「な・・・・何じゃ、あいつらは?!!」
直道も息子を抱いたまま恐る恐る窓の外をのぞき込む。

月夜に照らされた地面には数え切れないほど多くの「それ」が蠢いていた。


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