立川基地

十条駐屯地から戻った中島少佐がイライラしながら東北の地図が映し出されたモニターの前を行き来している。
「少佐、震源は先ほど田沢湖付近で観測されました。」
「第十三戦車大隊と第三メーサー戦車部隊は東北自動車道にて待機中。」
「茨城と埼玉の部隊は計4カ所に高射砲陣地の構築を完了。」

「少佐、高射砲って?」
「鈍いヤツだな。もしあのコウモリのバケモノが邪魔に入ったらどうする。
 北に向かって飛ぶようなら片っ端から撃ち落としてやるのさ。
 それにしても肝心のAサイクル光線車はどうなっている?!
 御殿場基地は何か言ってこないのか?」
「先ほども問い合わせましたが、『作業中』というだけで。」
「今はそれが頼りなのに。地上に頭を出させないと攻撃のしようがない!!」
腕組みをしたまま目をつぶっていた大田原大佐に若い隊員が耳打ちする。
「大佐、先ほど海防からの情報で、米原潜『ポートマン』が日本海溝で正体不明の敵に撃沈させられたと。」
「何、米軍の原潜が?!」
「海防がすでに捜索に向かっております。第一艦隊は駿河湾に展開中とのことです。」
「今度は海からか。阿須美さん、今度は何が来る?」
阿須美は黙って頭を横に振る。
「前にも申し上げたとおり、私たち影は相互の連絡を絶ってきたのです。
 どこに何が封じ込められているのかを知りません。」
「そうだったな。結局1つづつ潰していくしかないわけか。」
大佐もまた大きな溜息をつきながら地図上の赤い点滅を見つめた。

「御殿場基地から入電!」
「金城君、待ちかねたぞ!で、うまくいきそうか?」
「大佐、ええ、何とか間に合わせましたよ。えっと、そこに菖蒲さんいますか?」
菖蒲がマイクに飛びつく。
「いるわよ!何?!」
「確か、秋田の大湯環状列石の側にも『空船遺跡』があったって言ってましたよね。
 そのデータはありますか?」
「ええ、パソコンに入っているわ。」
「至急こちらに送って下さい。
 Aサイクルだけでなく『空船シュミレーター』の機能も追加したんで。」
「わかったわ。」

「第一次防衛ラインは山形県寒河江市郊外!!
 九○式とメーサー部隊を東北自動車道から山形自動車道へ。
 対戦車ヘリ部隊を山形空港に!
 Aサイクル光線車も陸路では間に合わない。至急山形空港まで空輸してくれ!
 ここは総力戦でバラゴンを叩く!
 第二次防衛ラインは郡山市郊外に置くが、第一次防衛ラインでバラゴンを地上に引きずり上げて一気にけりをつけなければ地中をすり抜けられてGAME OVERだということを忘れるな。」
中島少佐が大田原大佐に向き直って敬礼する。
「大佐、では私は現地で指揮を。」
「頼んだぞ、少佐。これ以上『魔』を首都に近づけるわけにはいかない!
 たとえ1匹たりともな。」
「大佐!」
少佐は一歩進み出た真田を皮肉っぽい笑みを浮かべながら見た。
「また『連れて行け』って言うんじゃないだろうな?」
「バラゴンの成獣は約3分で地中に逃れる穴を掘る。
 堀り始めの侵入角はほぼ45〜60度。
 水平移動に移るまではほとんど一直線なんだ。
 それとバラゴンの弱点はあの大きな耳の付け根。
 あの部分に特殊な感覚器があって、それを使って地中での方向を定めているんだ。」
「なるほど、怪獣島の飼育係だっただけのことはある。よかろう、もう一度連れていってやる。」
「飼育係じゃない。主任補佐だよ。『元』だけど。」


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