「あんな大きな個体は見たことがない。それにあんなに体色が黒っぽいのも初めてだ。」
「ゴジラより少し小さいぐらいか。しかし今更退くわけにはいかない。
 各車、まだ射撃は待て。もっと引きつけて今出てきたばかりの穴から離すんだ。
 ヘリ部隊は攻撃が始まったらバラゴンの堀穴にありったけの対戦車ミサイルをぶち込んで穴をふさげ!」

バラゴンはゆっくりとその巨体を揺すりながら遥か昔に聞き覚えのある「音色」に向かってゆっくりと前身を始めた。
雑木林の大木がまるでマッチ棒のように容易くへし折られていく。
「Aサイクル光線車だけゆっくり後退させろ。まだ撃つなよ、あともう少しだ。」
各車の砲手達は息を潜め、ぐっと砲のトリガーを握りしめる。

「撃てっ!!」
辺りの空気を震わす轟音と共に居並ぶ九○式戦車の120mm滑空砲が一斉に火を噴く。
同時に鎌首をもたげたかのようなメーサー戦車の電光管が光り、必殺の殺獣光線がターゲット目指して伸びる。
バリバリバリッ!!ズドドドドーーーーーーン!!!
不意打ちを食らったバラゴンは一瞬怯んだかに見えたが、ひときわ甲高い咆哮をあげると頭を低く下げ正面の主力に向かって地響きを立てて突進してくる。
「両翼の部隊、耳だ!耳を狙い撃てぇぇ!」
激しい砲弾の嵐が次々と炸裂し、殺獣光線がその鎧のような皮膚を焼く。
ギェェェェ〜〜〜〜〜〜ン!!
急所を狙われるのを嫌った巨獣は激しく頭を振りながら横に逃げた。
しかしその巨大な体はたとえ身をかがめようと雑木林の中に隠れるものではない。
メーサー光線はその雑木林ですら容赦なくなぎ倒しその姿を露にする。
何よりその光る角がそこに「頭」があることの絶好のターゲットとなるのだ。

と、いきなりバラゴンが後ろ足で立ち上がった。
次の瞬間その口からは真っ赤な熱線が発せられる。
数台の九○式戦車がその中で赤熱し飴のように融けていく。

「左翼部隊、散開しろ!バラゴンとの距離を詰めすぎるな!
 右翼部隊前進!背後から耳の後ろを狙い撃て!!」

闇雲に吐き出された熱線のためにみるみるうちに雑木林のあちこちに火の手が上がる。
「少佐、消防を!」
「ムダだ、第一こんな戦闘状態の中で消火活動などさせられるか!
 全弾撃ち尽くすまで撃ち続けろ!」

死闘は続いた。
しかし再び熱線を吐こうと立ち上がった時、その片耳に砲火が集中した。
それはだらりとぶら下がり、次の一撃でついにちぎれ飛んだ。
ギャエ、ギャエェェェェェ〜〜〜〜〜〜ン!!!
バラゴンは悲鳴のような鳴き声を上げて転げ回る。

「攻撃の手を休めるな!一気にけりを付けるんだ!!」
バラゴンはもう一度咆哮した後もと来た穴に向かって敗走し始めた。
「バラゴン、逃げます!」「各隊包囲網を縮めながら前進!!!」
そこにすでに穴がないことを知ったバラゴンは猛烈な勢いで地面を掘り始める。
もちろんその間も激しい砲撃は続いた。
見る見るうちにその上半身は見えなくなっていく。
「少佐、このままでは!」
「砲撃止め!各隊下がれ!ヘリ部隊、ナパーム弾投下スタンバイ!!」
バラゴンの長い尻尾の先が隠れてから少佐は黙って腕時計を見つめた。
1分・・・2分・・・・3分・・
「今だ!ナパーム弾投下!!!」
対戦車ヘリが次々と急降下してその巨大な穴にナパーム弾を投げ込んでいく。
そして数秒後、その中から真っ赤な火柱が立ちのぼった。

「どうだ、やったか?!」
「震源、消失しました!!」
「やったぁぁ!!」という歓声が巻き起こった。

夕暮れが迫っていた。
林のあちこちから上がっていた火の手もほぼ消し止められ、今は白い煙が立ち上っている。
バラゴンはおそらく死んだだろう。
中島少佐は穴をダイナマイトで埋めることを決定した。
バラゴンの「体内」に寄生しているものがあるかもしれないからだ。
だったらその「出口」は塞ぐべきだと。
その作業の様子をぼんやり眺めていた真田の後ろにいつの間にか金城が立っていた。
「どうしたんだよ、ぼーっとして。」
「何だか・・・かわいそうだって・・・・。」
金城は一瞬「えっ?」という顔をした。
「人と怪獣はやっぱり共存していけないのかな?」
「『怪獣島』が無い今はね。さあ本部に戻ろう。まだ東京はやつらに占領されたままなんだから。」


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