ゴジラの勝利の興奮も冷めやらぬ司令室で大田原指令は真田と中島少佐を呼んだ。
「ゴジラは勝った。しかしあそこにいるのは怪獣島で手懐けられたゴジラではない。
 原潜の核エネルギーをたらふく詰め込んだ動く原爆そのものだ。
 むしろこれからが正念場なのだ。
 真田君、至急『強化コントロール装置』によるゴジラの誘導を。
 少佐も直ちに神無島へ飛び、爆破作戦の指揮をとれ!」
「今度こそしくじるなよ、真田。」「神無島で待っててくれ、少佐。」
その時司令室に警報が鳴り渡る。
「ゴジラ、移動を開始、春日通り沿いに池袋方面へ進行中!!」「何ぃっ?!!」
確かにスクリーンに映し出されているのは目の前の建物を片っ端から突き崩し、踏みつぶし、放射熱線で辺りを焼き尽くしながら進む怪獣王の姿だった。
「何故だ?!リベンジはもう果たしたんじゃなかったのか?!
 これ以上内陸に進んでどうしようと言うんだ?!!」

「『怨』よ。ディオガルスはゴジラに『怨』を伝えたんだわ。」
「『怨』を伝える?いったい何のことだ、阿須美さん?!!」
「自分の『人間に対する恨み』を死ぬ間際のあの針に積めてゴジラに打ち込んだのよ。
 かって自らも龍として封印されていたゴジラの中にもそれはあったはず。
 人間に疎んじられ封じ込められた怨念をゴジラに伝えゴジラ自身の中の『怨』を呼び覚ましたんだわ!」
「急ごう!どういう理由にせよ、早くアイツを止めないと!」
「私も連れていって下さい!」
「しかし・・・阿須美さん、もうディオガルスは死んだんだ。
 もう君の役目は終わったんだよ。
 すすんで危険な場所に行くことはない!」
「いいえ、あなた達にはあれがゴジラでも私たち『影』にとっては『龍』なのです!
 まだ私の務めは終わっていません!」
真田はじっと阿須美の目を見る。
「わかった。一緒に行こう。」
「まさか私を置いて行くなんて言わないわよね、金城君。」
にっこり笑う菖蒲がいつのまにか金城の腕に自らの腕を絡ませていた。

ゴジラは内からわき上がる得体の知れない物につき動かされていた。
どこへ行こうとしているのか、何をしようとしているのか?
ただこの足元に蔓延るものたちの存在全てが許せなかったのかも知れない。
それは目に触れる物全てを、破壊し業火に焼きながら進んでいた。
その頭上高く、空を横切る爆音。
百里基地から発進した空防のF-1 支援戦闘機の編隊であった。

「こちら隊長機。
 我々の任務は陸防さんの基地からこちらに向かっているゴジラ誘導ヘリが到着するまでの時間稼ぎだ。
 深追いは禁物だ。」
「ラジャ!」
計12機のFは3機づつに分かれゴジラの背後から急降下をかけては20mmバルカン砲を連射する。

「隊長、ダメです!ゴジラのヤツ振り向きもしません。」
「ラジャ!百里基地、バルカン砲ではゴジラの注意をひくことができません。ミサイルの発射許可を!」
「こちら百里基地。ミサイルの発射を許可する。但し市街地だ、誤射だけは絶対避けるように!」
「ラジャ!!」

しかしそのミサイルですらゴジラの侵攻をくい止めることはできなかった。
飛び去るFの後方から放射熱線が放たれる!
ゴォォォォーーーーーーーーツ!!!
あっと言う間に1機のFが火だるまになって夜空を染める。
「全機離脱!市街地に墜落すると被害が広がるばかりだ!!」
邪魔するものが無くなったゴジラは再び容赦なく辺りを焼き払い始めた。
その天を焼く炎は東京の夜空を真っ赤に染めた。

避難民達はわが家が、わが町が次々と業火に飲み込まれるのを呆然として見守るしかなかった。
隆二は父親の胸にすがりながら泣きじゃくっていた。
「どうして?どうしてゴジラは・・・ディオガルスをやっつけてくれたのにぼくたちの街を焼いちゃうの?
 ゴジラはぼくたちを守ってくれたんじゃないの?!」
その手にはまだしっかりとゴジラのソフビが握りしめられていた。
父親は答えるべき言葉を持たず、ただただ息子を抱きしめるしか無かった。

「こちら誘導ヘリ。ただいま新宿上空。あっ、あそこだ!!春日通り沿いはほとんど火の海です!」
ヘリから見おろす夜景は停電の闇から解放され、いつもの美しいきらめきを取り戻していた。
ただ、ゴジラの通った後は一直線に火の手が上がっていたのだった。
その光景を見た阿須美があっと声をつまらせる。
「真田、ゴジラの後ろに回り込んでくれ!このまま行くと池袋だ!
 まずは振り向かせて侵攻を止めるんだ!」

まもなく誘導ヘリは現場の上空に達していた。
「強化コントロール装置、スイッチオン!!」
金城があわただしくキーを叩く。
「あれぇ、どうしたんだ?!止まれ、止まれってぇのに!!」
「どうしたんだ、金城? ダメなのか?!
 まさか・・・ディオガルスとの戦いでゴジラに取り付けた受信機が壊れたんじゃ??」
金城は必死にキーを叩きながら首を横に振る。
「いや、シンクロ率は80%。これは故障なんかじゃない!!」
「じゃあ何故?!!ともかくコントロール装置のパワーを目一杯まで上げるんだ!!」

こうしている間にもゴジラは徐々に池袋へと近づいていた。 
その前方には明かりを取り戻した地上240mのサンシャイン60を初めとするサンシャインシティが美しくきらめきながらそびえ立っていた。


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