サンシャイン60前

ゴジラは大きく体を反らせ背鰭を発光させる。
吐き出された放射熱線はその巨大なビルのど真ん中を貫通する。
次の瞬間、貫通されたビルの下の部分はその上の部分の重さに耐えきれずまるで砂の城のように自壊していく。
「ああっ、サンシャイン・シティが!!」
数分後にはそこは瓦礫の巨大な山となっていた。

ゴジラの侵攻は止まるところを知らない。
池袋駅前のビルはその放射熱線により砕け散り火の手を上げる。
「おいっ、金城、なんとかならないのか?!」
「ダメだ、ゴジラが全く反応しないんだ!!」

「・・・・私・・・やってみます。」
3人は「えっ」という表情で阿須美を見る。
阿須美は首から下げてる首飾りの一番大きい青い玉を外す。
「これは私たち祖先からの受け継がれてきた最後の手段。
 全ての精神力を注いで『魔』の『怨』を一定時間この玉の中に吸い込んで抑え込む『怨吸いの術』。
 自らは『魔』を封じる術を持たなかった『影』達は命を賭けて、封印を解いて荒ぶる『魔』を抑え、『光明』たちが到着するまでの時間稼ぎをしたのだと伝えられています。
 私のような巫女の血筋を継いだ者はもちろん、『影』の家に産まれた子は真っ先にこの術を学ぶのです。
 できることならこれは使いたくなかった。」
「阿須美さん、まさかそれを使うと・・・?!」
阿須美はだまって頭を横に振る。
「どういうことが起きるのかを阿須美は知りません。
 この術を使わざるを得なかった『影』達はすでにこの世にありませんから。
 使わずにこの玉と秘術を子にたくすとき、『影』はその務めを終えるのだと教わりました。
 すでにディオガルスは死にました。
 でもディオガルスの『怨』だけがあの龍の中に。
 今しかこれを使うときはありません。」
「止めろ!!阿須美さん、止めるんだぁぁぁ!!!!」
「真田さん・・・、約束を忘れないで・・・。」
真田の制止も聞かず呪文を唱える阿須美。
ゴジラの全身から立ち昇る不思議な光。
やがてその光は吸い込まれるように阿須美の玉の中へ。
同時に阿須美はがくりと菖蒲の腕の中へ崩れ落ちる。

「真田・・・見ろ!コジラが!!」
さっきまで荒れ狂っていた怪獣王の動きがぴたりととまる。
「シンクロ率92%!いけるぞ!!」
金城のキー操作に呼応してゴジラはゆっくりと向きを変える。

「この子、呼吸をしていないわ。心臓の音はかすかにしてるみたいだけど。」
菖蒲はやさしく阿須美の体を抱きしめる。
「阿須美・・さん・・・!」
「真田、何やってるんだ!もたもたしてるひまは無いぞ!海へ、神無島へ向かうんだ!」
「真田君、しっかりして!阿須美ちゃんは命をかけてこのくにを、いいえ、あなたを守ろうとしてるのよ!!」
袖で涙を拭った真田は大きく頷いた。
「よしっ、行くぞ!」

ゴジラは誘導ヘリの後を追って今し方自らが火の海にした「道」を辿り始める。
立川基地の司令室では歓声が上がっていた。
その中で大田原大佐はマイクを手に取る。
「少佐、ゴジラの誘導が始まった。後は頼んだぞ。」

避難所からゴジラを見つめる人々。
父親にしがみついていた隆二がダッと駆け出す。
片手にソフビを抱えたまま、炎の中を海に帰っていく怪獣王のシルエットに、彼は力一杯手を振る。
「ゴジラァァァ、ゴジラァァァァ〜〜〜〜〜〜!」


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