駆逐艦「ひりゅう」艦橋。
副艦長の柴崎大尉は双眼鏡から目を離し、口を真一文字に結んで前方を見つめている艦長、吉本少佐を見た。
「艦長、陸防からの情報、信じてらっしゃいますか?」
「わからん。」
前方を見つめたままの艦長はあきらかに不機嫌そうに答える。
「馬鹿げたおとぎ話のせられて作戦を組むとは正気の沙汰とは思えません。
 しかも関ヶ原で迎撃線をするなんて“天下分け目の一戦”を気取るつもりでしょうか?」
「陸にあがったら陸防の好きにやらせるさ。我々の任務はヤツを陸に上げないことだ。
 2000をもって爆雷投下を開始する。
 ディオガルスとやら、海底にへばりついてのんびりしていられるのもあとわずかだ!」

関ヶ原ディオガルス迎撃作戦本部。
そのテントから少し離れた一角で「空船シュミレーター」のセットをする真田たち。
「どうして陸防さんにこのシュミレーターのこと言わなかったんだよ?
 第一誘導作戦なんだろ?まさかお前まだ俺のこと信じて無いのか?」
金城はむっとした顔で作業の手を止めて横に立っている真田を見上げた。
「こっちの話の何分の1も信じてないやつらに言ってもしょうがないだろ。
 これはおれの推測なんだが、どうもこれは奥の手のような気がするんだ。
 少なくとも今使う代物じゃないんじゃないかな。」
そう言いながら真田はちらりと阿須美を見る。
「私は・・・ともかくディオガルスに京の都を踏み荒らされたく無いだけです。」
「ホント、よりにもよって今回の調査結果を故郷の京都で披露するなんてまっぴらごめんだわ。」

阿須美は真田達と「光明」の老人の家を尋ねたときのことを思い出していた。
帰りしなに阿須美だけが呼び止められたのだった。
「阿須美よ。お前だけには言っておく。もしディオガルスがここにやってくるようでもわしはここを動くつもりはない。」
「ええっ、どうしてですか、おじいさま?!」
「わしの命はもうそう永くはない。わしはもう十分長く生きすぎたのじゃ。」
「でもおじいさま!」
「ディオガルスのやつならこの家ごとわしを踏みつぶしていくじゃろう。
 その方がわしの躯をこの“くに”の人々の目にさらすこともあるまいて。」
「お・・・おじいさま!!」
「泣いているひまはない、阿須美よ。影のつとめしっかり果たすのじゃ、よいな!」

阿須美は手を組み祈るように目を閉じた。

「大佐、特・乙型地雷のセット、完了しました!」
「よしっ、間にあったな。」
大田原大佐は時計を見ながら小さな溜息をついた。
「特・乙型301号垂直指向性地雷か。確か実戦での使用は初めてだったな、少佐。」
「はいっ。通称バーチカル・ボンバー。
 上下方向への爆発力を選択的に高めた新兵器です。
 上を通過するものを上方向の爆発力で粉砕し、同時に下方向への爆発力で深さ約20mの穴を開けてその中に落とし込む。
 周りを海で囲まれたわが国にとって、敵の上陸を阻む究極兵器として開発されました。
 今回この特・乙型地雷を10mおきに縦横100mのエリアに設置し、ディオガルスをそこに誘導して遠隔操作で一気に爆発させます。
 同時にここに配備した戦車部隊が砲撃を加える手はずです。
 万が一ディオガルスが反撃したとしてもちょうどここは死角になりますから静電砲での直撃は不可能です。」
地図を指し示しながら説明する中島少佐の声は自信に満ちていた。
「殺獣光線車は?」
「メーサーですか?あれは射程距離が短いので今回は直接攻撃には加えません。
 但し手前1kmのこのポイントの森に隠しディオガルスの通過を見届けてから隊陣を組ませて退路を断ちます。」
「うむ・・・。そろそろ海防さんが始める頃だな。」
そう言いながら大田原大佐はもう一度時計をみた。


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