京都、夕刻。
「公明」の老人の家の辺りでしゃがみ込み手を合わせている阿須美。
それをじっと見つめる自転車にまたがった真田と金城、菖蒲。
「あの時は気がつかなかったけど、この家も御所の北東にあったのか。
 しかし壮絶な眺めだなあ。ディオガルスのやつ御所まで真一文字に破壊しながら進んだのか。」
確かに真田が振り返る風景は御所までまるで新しく道でもできたかのように建物が破壊されていた。
そしてその先には夕陽に照らされて天にそびえ立つディオガルスの蒼白の城。
「まるでお寺めぐりでもしに来たみたいね。
 この直線上にある寺社仏閣は片っ端から静電砲でぶっ飛ばされているわ。
 これってやっぱり阿須美さんが言っていた結界とかに何か関わりがあるのかしら?」
「多分ね。しかし結界というならあの巣だって十分結界ですよ。
 防衛隊の調査によると半径5kmの地域じゃ強力な電波障害のために無線・携帯は使えない。
 それどころか有線、光ファイバーもだめ。おまけに東西を結ぶありとあらゆる通信手段がここで全て寸断されてしまっている。
 さらにあれが発する電磁波のせいであらゆる電子部品が一瞬でオシャカになるから車ですら使えない。
 まさに電磁の要塞って感じだな。
 そういえば菖蒲さん、大学に戻らなくていいんですか?」
「大学は宇治だし、このドタバタに帰って調査報告でもないでしょうし。
 最後までつき合わせてもらうわ。」
「そろそろ戻ろうや、真田。市内の停電は続いてるんだ。
 日が暮れたら真っ暗になっちまうぞ。」
「ディオガルスは・・・魔を呼び込むつもりなんだわ。」
すっと立ち上がった阿須美がそう言いながら振り返る。
「えっ?」
「都の中心に至る結界を全て破壊し、その中に自らの結界を張り、さらには日本中に散らばった魔を呼び寄せるつもりなのです。」
「日本中のって・・・?!!」
「かって光明の一族が退治し、日本の各地で影の一族が封印していた魔。ディオガルスはそのうちの1匹に過ぎません。」
「いったいそれは全部でどのくらいいるんだ?!」
「各地に散らばった影の一族は互いの交流を断ってきたのです。
 詳しいことは阿須美も聞かされてはいませんが、多分百は切らないと思います。」
「ひゃ、百ぅ!!!そんなことになったら事は京都だけじゃあ済まないぞ!」

ペダルをこぐ四人を、車が使えず徒歩や自転車で避難する人々と共に底なしのような闇が包み始めていた。
「何て事だ。今日は雲がかかってて月も星も見えないからホントに真っ暗じゃないか。」
「きっと平安の頃の夜ってのもこんな感じだったはずよ。
 怪獣一匹のために京都がまるでタイム・スリップしたみたい。」
「ずいぶんのんきなこと言ってますね、菖蒲さん。」
「物事を悲観的にしか考えられない人って学者にはむかないのよ。」
その彼らの前方に赤い照明弾が打ち上げられた。
1発、2発、3発!!
「あれは確か『全員待避せよ』・・・ってことは!」
「おじいさまの龍返しの術。」
「ご・・・ゴジラ!!!」


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